海外案件の進捗を読み違えないための前提

SMRに関する報道の多くは海外案件を扱っており、発表、覚書、許認可、着工、運転といった段階が混在したまま伝えられます。各国の制度、資金の出し手、電力市場の構造が異なるため、ある国の進捗をそのまま他国や日本の見通しに置き換えることはできません。海外動向を読む目的は、成功例を探すことではなく、どの条件が進捗を左右したかを制度と工程の差から学ぶことです。

[PR]

本ページでは、主要国のSMR計画を制度の枠組みと到達段階の観点から比較し、比較表に残すべき項目を示します。事業性の判断基準は市場概況、国内の規制手続は制度・安全で扱っています。

到達段階の定義を国ごとに揃える

各国の許認可制度は段階の区切り方が異なります。米国では設計認証と建設許可・運転許可が別の手続として存在し、カナダでは建設前のベンダー設計審査と建設許可が分かれています。英国では包括的設計審査という設計の事前評価があり、立地ごとの許可はまた別です。同じ「承認」という言葉でも、設計に対する承認か、特定サイトでの建設に対する許可かで意味が大きく異なります。

[PR]

比較表では、到達段階を「設計審査中」「設計承認済」「建設許可申請中」「建設許可済」「着工」「運転開始」のように定義し、各国の制度上の手続をこの定義に対応づけます。対応づけには解釈の幅があるため、対応の根拠となる制度の名称と、参照した公表資料を併記します。

[PR]

公表される費用は範囲と基準年が異なる

海外案件の公表費用は、機器と建設だけを含むもの、送電設備や燃料の初装荷を含むもの、金融費用を含むものが混在しています。また、通貨と基準年が異なるため、単純な換算では比較になりません。比較表には費用の範囲、通貨、基準年の三つを必ず記載し、同じ範囲に揃えた上で比較します。

費用の公表値が更新された場合は、更新前後の値と更新理由を記録します。更新理由が「範囲の拡大」なのか「同じ範囲での上振れ」なのかで、案件の費用管理に対する評価は変わります。範囲の拡大による更新を単純な費用超過として扱うと、案件の評価を誤ります。

国際機関の公開情報を一次資料として使う

海外動向を追跡する際の一次資料としては、IAEAが公開するSMRの設計情報データベースと年次のSMR動向報告、OECD/NEAが公開するSMRの進捗一覧が有用です。これらは各国の規制当局や設計者からの申告に基づいて整理されており、報道より更新は遅いものの、到達段階の定義が比較的揃っています。報道で得た情報は、これらの資料で裏付けが取れた時点で比較表に反映します。

各国の規制当局が公開する審査状況も一次資料です。米国NRC、カナダCNSC、英国ONRはいずれも申請中の案件と審査の段階を公開しており、設計者の発表と規制当局の記録が食い違う場合は規制当局の記録を優先します。比較表には参照した資料の名称と確認日を残し、後から根拠をたどれるようにします。

北米:設計認証の先行と初号機の分岐

米国の設計認証と中止された初号機計画

米国では、NuScale社の設計が2023年に規制委員会(NRC)の設計認証を受け、軽水炉型SMRとして初めて認証に到達しました。しかし、この設計を採用する予定だったユタ州の案件は、電力価格の上昇と加入電力会社の離脱により2023年11月に中止されました。設計認証と初号機の建設は別の段階であり、認証があっても顧客の価格受容がなければ建設に至らないことを示した事例です。

その後、米国では2024年に新型炉の許認可を効率化する法律(ADVANCE法)が成立し、規制側の手続改善が進められています。また、テネシー川流域開発公社(TVA)がBWRX-300型の建設許可を申請するなど、公的事業者が初号機を担う動きがあります。さらに、大手IT企業が新型炉開発企業と電力購入や開発支援で合意したと相次いで公表され、需要側からの関与が強まっています。

カナダ:既存サイトでの建設許可と州の関与

カナダのオンタリオ州では、州営電力会社(OPG)がダーリントンの既存原子力サイトにBWRX-300型を4基建設する計画を進め、2025年に規制当局(CNSC)から初号機の建設許可を得ました。州政府は建設を承認し、4基の総費用を公表しています。既存サイトの活用、州の関与、公的事業者の実行という条件が揃った案件として、西側諸国の中で最も先行しているとされます。

この案件では、初号機の費用に共通設備の投資が含まれ、後続機の単価が下がる構造が公表されています。ただし、後続機の建設は初号機の実績を踏まえて判断される段階的な仕組みであり、4基すべてが確定したわけではありません。カナダの案件の詳細はオンタリオ州のSMR建設が示す、カナダ原子力産業の再成長シナリオで検討しています。

欧州:国営主導の選定と供給網の再構築

英国の選定手続と国内製造の重視

英国では、政府が設立した国営組織がSMRの設計を競争的に選定する手続を進め、2025年にロールス・ロイスSMR社の設計を優先交渉先として選定したと公表されています。英国の手続は、政府が資金と立地を用意し、設計者を競わせる方式であり、国内の製造業と雇用を重視する政策目的が明示されています。

英国の事例から学べるのは、政府が需要と立地を先に確定し、設計者の選定を後にする順序です。この順序では、設計者が資金調達と立地確保を自ら行う負担が軽減される一方、政府の政策変更が案件全体に直接影響します。政権交代や財政状況の変化が工程に与える影響を、比較表のリスク項目として記録しておきます。

ポーランドと中東欧の石炭代替需要

ポーランドでは、民間企業の合弁がBWRX-300型を複数サイトに建設する計画を進め、規制当局との事前手続を行っています。石炭火力への依存度が高い中東欧では、脱炭素と供給安定を両立する電源としてSMRへの期待が大きく、産業用の熱供給と組み合わせる構想も示されています。

中東欧の案件は、欧州連合の資金支援や国家補助の承認手続に依存する部分が大きく、規制と資金の両面で確定に時間を要します。案件の到達段階を評価する際は、国内の許認可だけでなく、欧州連合レベルの承認の有無を確認項目に加えます。

中国・ロシア・韓国:運転実績と国家主導の展開

商業運転に到達した設計の条件

中国では、海南省で建設中の陸上型SMR(玲龍一号、出力12.5万kW級)が2021年に着工し、2026年前後の運転開始が見込まれているとされます。また、高温ガス炉の実証炉が2023年に商業運転を開始しました。ロシアでは、船に搭載した浮体式原子力発電所が2020年から運転しています。これらは国営企業が設計、製造、運転を一貫して担う体制の下で実現しました。

国家主導の案件は、資金と規制の不確実性が小さい一方、費用や工程の詳細が公表されないことが多く、他国の事業性の参考にはしにくい面があります。比較表では、運転実績のある設計として記録しつつ、費用と工程の情報が「非公表」であることを明示し、公表値のある案件と同列に扱わないよう注意します。

韓国の設計開発と輸出戦略

韓国では、独自設計の革新型SMR(i-SMR)の開発が国家事業として進められ、2020年代後半の標準設計認可を目指しているとされます。韓国は大型炉の輸出実績を持ち、SMRでも設計と製造を一体で輸出する戦略を取っています。日本の製造業にとっては、競合であると同時に、機器供給での協業の可能性もある相手です。

輸出を前提とする設計では、輸出先の規制への適合が課題になります。韓国の設計が海外で建設される場合、輸出先の許認可手続を経る必要があり、その期間と費用は国内案件とは異なります。海外設計を国内に導入する場合の論点は、韓国設計に限らず共通です。

比較から得られる制度と工程の教訓

進捗を左右した共通条件

各国の案件を比較すると、進捗が早い案件には、公的事業者または政府の関与、既存サイトの活用、需要と資金の先行確定という条件が共通して見られます。逆に、民間の開発企業が資金調達と顧客確保を同時に行う案件は、価格の上振れが顧客離脱に直結し、工程が止まりやすい傾向があります。

これらの条件は、日本での検討にも適用できます。既存の原子力サイトや火力サイトの活用、電力の買い手と資金の出し手の事前確定、規制手続の見通しという三点が揃わない案件は、海外の先行例と同じ理由で停滞する可能性が高いと考えられます。

日本の製造業と投資家にとっての含意

日本の製造業は、海外SMR案件への機器供給という形で既に関与しています。海外案件の進捗は、国内企業の受注と製造枠の配分に直接影響するため、海外動向の追跡は国内事業の計画と切り離せません。投資家にとっては、海外案件の遅延や中止が、関連企業の業績や国内の政策判断に波及する経路を把握しておくことが重要です。

海外動向を国内の判断に生かすには、単一の案件の成否に注目するのではなく、複数の案件を同じ比較表で追跡し、条件の違いと結果の違いを対応づけることが有効です。比較表の更新は四半期ごとを目安とし、更新のたびに前回からの変化を記録します。

比較表に残す項目と確認チェックリスト

海外案件を継続的に比較するための項目をまとめます。各項目について、根拠資料、確認日、次回の判断時点を一緒に残してください。

  • 事業主体の種類(政府・公的事業者・民間)、炉型と設計者、出力、候補地、立地の種類(既存サイト・新規)を記録しているか。
  • 到達段階を共通の定義で記録し、対応づけの根拠となる制度の名称と公表資料を併記しているか。
  • 公表費用の範囲、通貨、基準年を記録し、更新時に更新理由を「範囲の拡大」と「同じ範囲での上振れ」に区別しているか。
  • 電力の買い手と資金の出し手が確定しているか、確定の時期と契約の拘束力を記録しているか。
  • 政権交代、財政状況、欧州連合などの上位機関の承認といった政策リスクを項目として持っているか。
  • 費用や工程が非公表の案件を明示し、公表値のある案件と同列に比較していないか。

海外動向は、日本のSMR導入の可否を直接決めるものではありませんが、どの条件が揃えば進み、どの条件が欠けると止まるかを示す実例です。個別ニュースの検討は分析ブログで続けています。