SMRの系統価値は「年間発電量」だけでは測れない

SMRを電力系統の中でどう評価するかは、導入の是非を左右する実務上の核心です。発電単価の比較に終始すると、いつ発電するか、系統のどこで発電するか、停止したときに何が起きるかという価値の差が見えなくなります。再生可能エネルギーの比率が高まるほど、電源の価値は時間帯と場所によって大きく変動します。

本ページでは、SMRの系統上の役割を、時間別の価値、接続点の条件、レジリエンスへの寄与、産業熱を含む多目的利用という四つの観点から、比較可能な指標に落とし込む方法を整理します。事業性全体の判断は市場概況、政策シナリオの扱いは将来展望で扱っています。

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均等化発電原価の限界を理解する

均等化発電原価(LCOE)は、生涯の費用を生涯の発電量で割った指標で、電源間の比較に広く使われます。しかしLCOEは発電の時間帯や系統への貢献を考慮しないため、太陽光が余る昼間に発電する電源と、需要が高い夕方に発電する電源を同じ価値として扱ってしまいます。SMRの評価では、LCOEを出発点としつつ、系統側の費用を加えた指標で補完する必要があります。

補完する指標としては、系統の需給調整や送電網増強の費用を含めた系統統合費用、あるいは市場価格で加重した発電収入の見込みが挙げられます。いずれの指標も前提条件に依存するため、評価書には使用した価格シナリオ、系統モデルの範囲、比較対象の電源を明記し、同じ条件で比較できる状態にすることが重要です。

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比較対象を揃えなければ評価は成り立たない

SMRの評価でよく見られる誤りは、比較対象の電源を都合よく選ぶことです。たとえば蓄電池なしの太陽光と比較すれば常時運転の価値が強調され、ガス火力の燃料費が低い前提と比較すれば不利に見えます。実務では、同じ需要を満たすために必要な電源と蓄電の組み合わせを複数用意し、それぞれの総費用と供給信頼度を比較します。

比較の枠組みは、需要家の負荷形状、地域の系統制約、既存電源の廃止時期を反映して設計します。この枠組みを事前に関係者間で合意しておかないと、評価結果が出るたびに前提の妥当性が争点となり、判断が進みません。評価は結論を出す作業ではなく、判断の根拠を共有可能な形にする作業です。

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時間別の価値を測るための指標と手順

設備利用率と時間帯別価格の組み合わせ

原子力は設備利用率が高く、定期検査を除けば年間を通じてほぼ一定の出力で運転します。この特性は、太陽光の出力が大きい昼間に卸電力価格が低下する地域では収入面で不利に働き、夜間や冬季の需要が高い地域では有利に働きます。評価では、候補地の属する系統エリアの時間帯別価格の実績と将来見通しを使い、SMRの発電時間に価格を掛け合わせた収入見込みを計算します。

日本の卸電力市場では、太陽光の導入が進んだエリアで昼間の価格が極めて低くなる日が増えているとされます。一方で、夕方から夜間にかけての価格は相対的に高く、冬季の需給逼迫時には高値が続くこともあります。SMRの価値は年間平均価格ではなく、こうした時間帯の分布と結びつけて評価します。

負荷追従運転の可否と費用

一部のSMR設計は、出力を調整する負荷追従運転に対応するとされています。負荷追従が可能であれば、昼間に出力を下げて夜間に上げることで収入を改善できる可能性がありますが、出力変動は燃料の利用効率と機器の疲労に影響します。負荷追従の頻度と範囲が設計上どこまで許容されるか、保守費用にどう影響するかを設計者に確認し、評価に織り込みます。

負荷追従の代わりに、蓄熱設備や水素製造設備と組み合わせ、原子炉は一定出力で運転しつつ電力の供給量を調整する構成も検討されています。この構成では、原子炉の運転を単純化できる一方、付帯設備の投資と運用が加わります。どちらの構成が有利かは、電力価格の変動幅と付帯設備の費用で決まるため、両方を試算して比較します。

容量価値と調整力としての評価

日本では容量市場が2020年度に導入され、供給力を提供する電源に容量収入が支払われる仕組みが整っています。また、需給調整市場では周波数調整などの調整力が取引されます。SMRが提供できる容量価値と調整力を、これらの市場の要件に照らして評価すると、発電収入以外の収入を見積もることができます。

ただし、容量市場の価格は年度ごとの入札結果で変動し、長期の収入を保証するものではありません。長期の収入見通しとしては、市場概況で触れた長期脱炭素電源オークションの枠組みを併せて検討し、市場収入と制度収入の組み合わせで資金回収を設計します。

接続点の条件が事業の成否を分ける

既存サイトの活用と新規接続の違い

SMRを既存の原子力発電所や火力発電所の敷地に設置する場合、既存の送電線や変電設備を活用できる可能性があります。カナダのオンタリオ州の案件が既存原子力サイトに立地しているのは、この利点を生かした例です。一方、新規の立地では送電線の新設や変電所の増強が必要となり、その費用と工期が事業計画に加わります。

日本では、送電線の空き容量が限られるエリアで、一定の条件下で出力制御を受け入れることを前提に接続する方式が導入されています。この方式で接続した場合、出力制御の頻度によっては発電収入が減少するため、接続契約の条件と出力制御の見込みを評価に反映します。接続の可否と条件は、一般送配電事業者への事前相談で早期に確認します。

系統接続の工程を事業工程と同期させる

系統接続の検討には、接続検討の申込み、技術検討、工事費負担金の算定、接続契約という段階があり、送電設備の増強が必要な場合は工事に数年を要することがあります。原子炉の許認可工程と送電設備の工程は別の主体が管理するため、両者を一つの工程表に統合し、いずれかの遅延が運転開始に与える影響を可視化します。

とくに、送電設備の工事費負担金は接続する事業者が負担する部分が大きく、事業費全体に占める比率が無視できない場合があります。負担金の見積りは接続検討の結果として提示されるため、事業費の公表前に接続検討を終えておくことが、後の上振れを防ぐ実務的な順序です。

レジリエンスへの寄与を定量化する

停電時の供給継続と単独運転の条件

SMRの利点として、災害時に地域や特定施設への電力供給を継続できる可能性が挙げられます。しかし、系統が停電した状態で原子炉が単独で運転を継続するには、周波数と電圧を維持する制御系、負荷の切り離し手順、規制上の許可が必要です。単独運転が設計上可能であることと、制度上認められて実際に運用できることは別です。

レジリエンスへの寄与を評価する際は、停電時に供給できる負荷の範囲、供給継続の時間、切り替えに要する時間を明示し、それが需要家の停止許容時間と整合するかを確認します。データセンターや医療施設のように停止許容時間が極めて短い需要家に対しては、非常用電源との組み合わせを含めた供給体制で評価します。

レジリエンス価値を費用に換算する方法

停電による損失の回避を価値として計上するには、需要家の停電損失額を推計し、供給継続で回避できる確率を掛け合わせます。停電損失額は業種と停電時間によって大きく異なり、製造業の生産停止や情報通信の障害では時間あたりの損失が大きいとされます。推計は需要家との協議で前提を共有し、過大な価値を計上しないよう保守的に見積もります。

レジリエンス価値は、需要家が自前の非常用電源を縮小できる場合に、その回避投資として具体化されます。回避される投資の金額と維持費を明示することで、抽象的な安心ではなく、費用の比較として議論できる状態になります。

産業熱と多目的利用の評価

熱の温度帯と需要地の距離

軽水炉型のSMRは300℃前後の蒸気を供給でき、高温ガス炉型では700℃を超える熱を供給できるとされています。産業熱の需要は温度帯によって異なり、化学工業や製紙では中温の蒸気、製鉄や水素製造では高温の熱が求められます。熱の供給は電力と違って長距離の輸送が難しいため、需要地との距離が事業の成立条件になります。

産業熱の供給を事業計画に含める場合、需要家の操業計画と原子炉の定期検査の時期を調整し、検査中の熱供給をどう代替するかを決めておきます。熱の供給契約は電力の契約と別に設計する必要があり、熱の価格、供給保証、停止時の補償を定めます。

水素製造や淡水化との組み合わせ

SMRを水素製造や海水淡水化と組み合わせる構想は各国で検討されています。これらは電力価格が低い時間帯に電力や熱を別の製品へ転換し、原子炉を一定出力で運転する手段として位置づけられます。ただし、水素や淡水の販売価格が投資を回収できる水準にあるか、需要が安定しているかは地域ごとに異なります。

多目的利用の評価では、副産物の販売収入を過大に見込まず、電力単独で成立する事業に副産物の収入が上乗せされる構成として設計します。副産物の収入を前提に電力価格を下げると、副産物の市場が想定どおりに育たなかった場合に事業全体が成立しなくなります。海外での多目的利用の事例は海外動向で取り上げています。

系統・評価の確認チェックリスト

SMRの系統上の価値を比較可能な形で評価するための確認項目をまとめます。各項目について、根拠資料、確認日、次回の判断時点を一緒に残してください。

  • LCOEに加えて、系統統合費用または時間帯別価格で加重した収入見込みを算出し、価格シナリオと系統モデルの範囲を明記しているか。
  • 比較対象の電源と蓄電の組み合わせを複数用意し、同じ需要と供給信頼度の条件で総費用を比較しているか。
  • 負荷追従運転の許容範囲と保守費用への影響を設計者に確認し、蓄熱や水素との組み合わせと比較しているか。
  • 一般送配電事業者への接続検討を事業費の公表前に終え、工事費負担金と出力制御の見込みを反映しているか。
  • 停電時に供給できる負荷の範囲と継続時間を明示し、需要家の停止許容時間と整合させているか。
  • 産業熱や副産物の収入を上乗せとして扱い、電力単独で成立する事業として設計しているか。

評価の目的は、SMRが有利か不利かを断定することではなく、どの条件で有利になり、どの条件で不利になるかを関係者が共有できる状態にすることです。条件が変わったときに評価を更新できるよう、前提を記録しておいてください。