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ロシア国営の原子力企業ロスアトムが、インドネシアのPT Pembangkit Listrik Nuklirと、浮体式の原子力発電ユニットから電気を供給する契約を結んだ。計画では、RITM系列の小型炉を載せたFPU-100を2基つくり、北ハルマヘラ島に配備する。出力は合計200MWである。供給の開始は、電力購入契約の主要条件が発効してから5年以内を見込む。浮体式原発はロシア極東のペベクで稼働中だが、海外の顧客に電気を供給する契約は初の輸出案件とされる。島が多く送電網をつなぎにくいインドネシアの事情と、輸出先を探すロシアの原子力産業の思惑が重なった形だ。ただし、契約の発効条件や資金の出どころなど、実現までの壁は多い。

引用元: ロスアトム、インドネシア向け浮体式原子力発電ユニットの輸出契約を締結(Bangladesh Monitor)

分析・見解

陸上の原発より早く動かせることが最大の売り物

浮体式原発は、造船所で原子炉ごと船体を組み立て、完成した船を曳航(=引っ張って運ぶこと)して据え付ける方式である。現地で必要な大工事は、係留設備と送電設備が中心になる。大型の陸上原発は建設に10年以上かかることも珍しくない。契約から5年以内という目標は、この方式の強みを前面に出したものだ。

前例は、ロシア極東のペベクで2020年に商業運転を始めたアカデミック・ロモノソフである。出力は小型炉2基で約70MWだった。今回は100MW級を2基そろえ、規模は3倍近い。搭載する炉は、砕氷船で実績を積んだRITMの系列である。ただし、氷を割って進む船の動力と、岸につないで発電し続ける設備では、求められる運転の姿が違う。長期の連続運転でどこまで稼働率を保てるかは、これから示す必要がある。

島ごとに電気が足りない国と、ニッケル産業の需要

インドネシアは1万7000を超える島からなる国で、全島を送電線でつなぐのは難しい。ハルマヘラ島周辺は、ニッケルの鉱山と精錬施設が集まる地域として知られる。精錬は電気を大量に使い、現状は石炭火力の自家発電に頼る例が多い。電気自動車向けの電池原料を売るには、排出量の少ない電気を使っているかが買い手から問われる。24時間止まらない原子力は、その答えの候補になりうる。200MWは大型原発の5分の1ほどだが、工業団地を支えるには十分な規模である。

規制、保険、地政学の三つが実現の壁になる

インドネシアには、商用の原子力発電所がまだない。規制機関はあるものの、海に浮かぶ発電所を審査した経験は乏しいと考えられる。船の安全基準と原子力の安全基準の境目にあり、事故時の責任や保険の扱いも決めなければならない。使用済み燃料は、供給国が引き取る形が一般的に想定される。

さらに、ロシアへの制裁がある。代金の決済、部品の調達、船の保険のどれも、西側の金融や保険に頼りにくい。インドネシアは特定の陣営に偏らない外交を続けてきた。ロシア製の原子力に頼る姿勢が国内外でどう受け止められるか、政治判断も絡む。

売っているのは設備ではなく電気そのもの

今回の契約が「電力の供給」である点は見逃せない。発電所を売るのではなく、電気を売るサービスに近い形だ。運転をロスアトム側が担うなら、インドネシアは原子力の専門人材を大量に育てる前に電気を得られる。携帯電話の通信契約のように、設備の中身を持たずに使えるわけだ。その代わり、燃料も運転も長期にわたって供給国に頼ることになる。導入の早さと引き換えに、依存する期間が長くなる。これがこの契約の本質的な取引条件である。

ビジネスへの影響

電力を大量に使う企業は調達の選択肢が広がる

ニッケルや電池材料、データセンターなど、電気を大量に使う業種にとって、小型で移設もできる原子力は新しい選択肢である。だが、買う側の企業に必要なのは、技術の優劣より前に契約条件を読む力だ。電気の価格は何年固定か。止まったときの補償はどうか。燃料の供給元が変わった場合はどうなるか。電力購入契約の主要条件が発効してから5年という期限は、裏返せば、発効しないかぎり時計が動かないことを意味する。工程表は、発効の時期を変数として組むべきである。電力調達、法務、購買の各部門が同じ一覧表を見て議論することを勧めたい。

日本の関連企業が確認しておきたい三つの点

一つ目は、取引先の電源構成である。インドネシアで素材を調達する企業は、仕入れ先の電気がどこから来るのかを、今後は問われやすくなる。排出量の算定に使う数字は、石炭から原子力に変われば大きく変わる。二つ目は、制裁への備えだ。ロシア関連の事業に資金や部品、保険がかかわると、日本企業も取引停止や審査強化の対象になりうる。間接的な関与でも、契約書や出資関係の確認が欠かせない。

三つ目は、規制の動きの監視である。海上設置の原発をどう審査するかというインドネシアの判断は、他の島しょ国の先例になる。造船、係留設備、送電機器、海洋調査などの分野では、事業機会が出る可能性もある。ただし、案件が実際に動くかを見極めてから動いても遅くない。まずは情報収集の担当者を決め、半年ごとに見直す程度の軽い体制で十分だろう。

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