ニュースの概要

小型モジュール炉(SMR)に関する調査結果がNucNetで報じられた。電力市場では再生可能エネルギーや大型原子炉との価格競争が厳しく、発電事業単体での採算確保には課題が残るという。一方でアンモニア合成や製油、鉄鋼精錬といった産業分野では、安定した高温熱源や水素製造への活用という観点からSMRの強みが発揮されやすいと指摘されている。これはSMRの普及が単なる発電設備の延長ではなく、産業インフラとしての位置づけへ移っていく可能性を示す内容だ。出典元のNucNetはこの調査を、原子力業界が発電偏重の議論から脱却する契機になり得ると位置づけている。

引用元: SMRの事業性、発電用途より産業用途で強いとする調査結果(NucNet)

分析・見解

発電市場でSMRが苦戦する構造的な理由

小型モジュール炉(SMR)は出力を抑えた分、電力単価の勝負では大型原子炉に分が悪い。原子力発電は設備を大きくするほど1キロワット当たりの建設費が下がる規模の経済が働くため、出力の小さいSMRは不利になりやすい。加えて太陽光や風力はこの十年で発電コストが大きく下がり、蓄電池を組み合わせた供給力でも価格競争力を高めている。卸電力市場で1キロワット時あたり数円単位を争う世界に、量産効果がまだ出ていない初号機のSMRを投入すれば、価格面で見劣りするのは当然の結果と言える。

産業用途でSMRの特性が生きる理由

これに対し製油所や製鉄所、アンモニアプラントが求めるのは、安い電気そのものではなく、止まらない熱と電力の供給である。工場は稼働率がそのまま収益に直結するため、単価が多少高くても供給が安定した電源を長期契約で選ぶ傾向が強い。SMRの中には摂氏600度を超える高温の蒸気や熱(=工業炉で使う高温の熱媒体)を取り出せる高温ガス炉型の設計もあり、これは太陽光や風力では代替しにくい領域だ。系統(=送電網)への接続や送電混雑を避け、工場の敷地内に電源を置ける点も、発電事業にはない評価ポイントになる。

水素・アンモニア製造という新しい出口

産業向けSMRのもう一つの狙いは水素だ。水を電気分解して水素を作るには、安定した電力と熱の両方が要る。再生可能エネルギーは出力が変動するため電解装置の稼働率が落ちやすいが、SMRなら稼働率を高く保ったまま水素を作り続けられる。作った水素をそのままアンモニアに変換すれば、肥料や船舶燃料としての需要も見込める。鉄鋼業界が模索する水素還元製鉄も、大量かつ安定した水素供給が前提になるため、SMRとの相性は良い。これは発電事業というより、化学プラントへの原料供給契約に近いビジネスモデルになる。

市場形成の主役は電力会社でなく工場になる可能性

この調査結果が示すのは、SMRの普及を主導するのが電力会社ではなく、重工業や化学メーカーになるという展開だ。海外では化学メーカーがSMR開発企業と工場向けの熱供給契約を先行して結ぶ事例も出てきており、これは電力入札とは全く異なる商談の進み方である。最初の商用案件は電力市場の入札ではなく、特定工場との個別契約から生まれる可能性が高く、案件の評価軸も「発電コスト」から「工場の稼働率をどれだけ守れるか」へと変わっていくだろう。

ビジネスへの影響

電力事業者より川下の需要家が先に動く

重工業や化学メーカーの経営層にとって、SMRは「電力の調達先」ではなく「工場の脱炭素インフラ」として検討する対象になる。自社工場の熱・電力需要と稼働率のデータを整理し、SMR事業者との個別交渉に持ち込める体制を早期に作れるかが、良い条件を引き出せるかの分かれ目になる。電力会社からの提案を待つのではなく、自社側から仕様を提示できる企業ほど、有利な条件で先行案件に参加できる可能性が高い。

投資判断は発電単価でなく長期供給契約の条件で見る

SMR案件を評価する際、キロワット時あたりの発電コストだけで比較するのは誤解を招く。工場側が重視すべきは、稼働率保証、熱の供給温度、契約年数、燃料調達の柔軟性といった長期契約の中身だ。電力市場の値動きリスクを避けられる点は、原料コストが利益率を左右する製油・製鉄・肥料業界にとって特に価値が大きく、財務部門は電力調達契約と同じ枠組みではなく、長期原料調達契約に近い視点で稟議を組む必要がある。

サプライチェーンと人材の確保が事業化の律速要因

SMRを自社工場に導入する場合、建設許可や燃料供給網、運転人材の確保が遅れの要因になりやすい。産業用途向けの実証案件はまだ少なく、先行企業と組んで知見を得るか、業界団体を通じた情報収集を早めに始めることが、他社に対する導入スピードの差につながる。人材面では、原子力の運転経験者と工場の生産技術者をつなぐ専門人材が不足しており、早期の育成投資も検討課題になる。稟議を通す段階から法務・調達・生産の各部門を巻き込み、社内の合意形成を前倒しで進めておくことが、着工までのリードタイム短縮につながる。

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